雨だね
もう梅雨入りとか、ちょっと早すぎる気がするんですが
どうなんでしょう
個人的にはあまり時には経ってほしくない状況です…
台風2号の風が強すぎて飛ばされそうだった件について
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「またイーラルですか?」
「いや、今度は普通の宝物庫だ」
ただ、ちょっと問題があって
カイルはテーブルに置かれた城の地図を指差す
「今度は渚羽が絡んでくる」
「あの“力こそ総て”の一族ですわよね」
「あぁ」
「渚羽のどなたがいらっしゃいますの?」
「十四位と十六位だ」
紅茶を片手に3人は話し込む
そこに日本人形が音も立てずに入ってきた
「傭兵として雇われているらしいね」
「あれ?以前、俺を狙ったのは…」
「十八位だから、彼より上になるね」
「マジですか」俺、どうしよう
置かれた紅茶のカップからは芳しいアールグレイの香りが漂う
紅茶は天井の明りを映していた
「大丈夫だ
今回はしっかりとしている 依炉波卿に依頼をしておいた」
「ちょ、万全じゃないですか!?」
「そうとも言えない」クズが
ツンと言い放つスピリタスにロウビィはゾクリと背中を震わす
「前回は連日徹夜で研究した揚句に、
下調べもろくにせずに突っ込むからああいう事になるんです」
金輪際、そんなことなさらないようにお願いします
一応敬語ではあるものの棘だらけのスピリタスの声に
カイルがやや小さくなる
「だからロイニードとロージィを連れて行ったんだよ」
「後付けですね」
「う…」
厳しいよスピリタス、とカイルはため息をつく
スピリタスは当然ですと言わんばかりだった
「クズ、依炉波卿がいるからと、
彼ばかりを頼るわけにもいかないだろう」
「そうですわよね…どういう風に協力いただきますの?」
「単純だよ 渚羽で依炉波卿といえば、序列一位の最強少年
皆そんな最強の彼と戦いたくてうずうずしているはずだ」
流石、戦闘一族…とロウビィは頷く
「そこで、彼に渚羽の注意をひきつけてもらう
依炉波卿からすれば俺たち盗賊団なんて小さな存在だからね」
「単純とはいえ、時間は限られてきますね」
いくらクズでもそこまで阿呆ではないでしょう
「そう、うまく隙をつかないといけない」
そこで…と、カイルは城の地図を指差しながら作戦を伝える
所々ウィンが質問しては、カイルが丁寧に答えていた
「案外あっさりいきましたね」
「あっさり過ぎて怖いくらいですわ」
「う~ん、渚羽はいつも野心満々だね」
「クズ…」
既に奪った宝物はカイルの術でアジトへ送ってある
後は、各々が退却するだけだった
「依炉波卿への感謝は後日ということになっている」
さぁ帰ろうか、そう言いかけた時カイルが何かの気配を感じ取る
「どうしましたの?」
「身を低くしろ」
スピリタスの低い声が夜の静寂に響く
ロウビィとウィンがかがんだ瞬間に強風が吹き荒れる
「カランサディア・フィーフィ!!」
「子供ですね」迷子でしょうか?
まるで頭上を龍が通っているような感覚
カイルは飛ばされないようにウィンをしっかりと抱きしめる
「奥地からのだな…次元洞穴でも生じたのだろう」
「ふぃーふぃですか?」
「あぁ、名前は可愛らしいが魔界奥地に生息する立派な魔獣だ」
「なんでこんな時に…」
「立つな」クズ
立ち上がろうとしたロウビィの服をスピリタスがぐいと引っ張る
ロウビィは姿勢を崩したが、飛ばされるよりましだろうと、
スピリタスは言い放った
「結界を張っているからね」ほら城を見てみなよ
ロウビィとウィンが城を見ると、空いた口が塞がらなかった
強風に当てられた城から瓦や城壁が飛ばされていくのがよくわかる
もはや城は原形をとどめておらず、近くでは木々がメキメキと折れる音がした
「な…」
「すごいですわね…」
「こんなのが、奥地にいるんだな」魔界って
驚くばかりの2人とは対照的にカイルとスピリタスは冷静だった
「この事態には…神が降臨するかもな」
「神…六華ですか?」
「いや、彼らの神とは別定義な…別の本物の神だ
ちょっと行ってくる」ここで待っていてくれ
そう言い放ったカイルの腕には、黒い文様が走っていた
飛ばされないように結界を張りながらカイルは
折れる木々を避けながら走っていた
やや黒い茶色の髪が金髪と並走する
「ゴード盗賊団のカイル様ですね?」
「……渚羽の蔵主か」
お互い一瞥するだけの存在確認
それでも2人には十分だった
「フィーフィの子供は少し怪我を負っただけでも
その風を弱めるという」
「共同を受け取りました
確か貴方は風を扱えたはず」
「あぁ、貴方なら一瞬に突けるはず」
フフと風の合間を走り抜けながら互いに微笑をもらした
フィーフィに近付くにつれて、その風は強くなる
カイルは風を扱えるが、拮抗させていられる時間の短さはわかっていた
「いくぞ」
「はい」
カイルは自身を源とし風を巻き起こす
フィーフィの風とカイルの風が混じり合う
はあ、とカイルは風を一層強めた
四方八方から降り乱れる風にカイルと夜未の髪が巻き上がる
カイルの腕や顔には黒い文様が現れていた
走りながらも風を起こし、一瞬の通り道を作りだす
その様はまさに風神
風と風が干渉しあい、夜空に浮かぶ薄紫色の球体が見えた
刹那、ドスの効いた独特の口調が響き渡る
「易ぅ見んときぃて」
夜未から放たれる銃声
その銃声は夜の静寂に響き渡った
放たれた銃弾はまっすぐに魔獣へと向かっていく
再び強風が吹き荒れることはなかった
夜未の銃弾が魔獣に到達した直後、次元洞穴は開かれ、
魔獣は本来の生息地へ帰って行った
後に残った城はもはや木すらなく
堀がただその存在を匂わせているだけだった
「今回の件で、ロウビィへの襲撃は埋め合わせられる」
「2度にも渡る御無礼をお許しいただけるとの事で」
ありがたく存じます
「極力お互いは不干渉がいいからね」
「こちらもです
渚羽はあなた方と対立する意思を持ちません」
カイルの腕や顔に現れていた文様は既に消えていた
夜未は銃器を片手に持ち、
ではこれにて失礼いたします、と闇に消えて行った
カイルの1つの眼は
空に残る神の開いた次元洞穴を映していた
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